
2021年6月9日(水)
「日本の脱炭素化を考えるための世界の科学者からの、気候変動10の最新メッセージ」
ウェビナーが開催されました。
日時:2021年6月9日(水)15:00~17:00
主催:国立研究開発法人国立環境研究所(オンライン開催)
モデレーター:江守正多先生(国立研究開発法人国立環境研修所)
今イベントではグローバルカーボンプロジェクト(GCP)の紹介に続き、GCPに参画する研究者と講演者が自身の担当や研究を10のメッセージと関連付けてお話されました。
◆フューチャー・アースの活動と「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ2020」の紹介 春日文子(国立環境研究所 特任フェロー/フューチャー・アース国際事務局日本ハブ 事務局長)
「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」
1. パリ協定達成のためには野心的な排出削減が必要なことが、モデルの改良によって強調された
2. 融解する永久凍土からの排出量が、これまでの予想よりも多くなるおそれがある
3. 森林伐採街熱帯の炭素吸収源を劣化させている
4. 気候変動は水の危機を著しく悪化させる
5. 気候変動はメンタルヘルスに著しく影響を与える
6. 政府はCOVID-19からのグリーンリカバリーの機会を活かせていない
7. COVID-19と気候変動が、新しい社会契約が必要なことを証明した
8. 成長に焦点を当てた景気刺激策はパリ協定を危機に陥れる
9. 構成で持続可能な社会への転換には、都市の電化が極めて重要である
10. 気候訴訟は人権擁護のための重要な行動である
今回のセミナーの主軸となっているレポートです。
興味のある方はぜひご一読ください。
原文:https://futureearth.org/publications/science-insights/
◆グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)の活動と2020年に発表した温室効果ガス収支報告の紹介 白井知子(国立環境研究所 地球システム領域 地球環境データ総合解析推進室長/GCP国際オフィス代表)
〈グローバルカーボンプロジェクト(GCP)〉
炭素循環について自然によるものと、人間の活動によるものとを総合的に研究している機関。
今回は2004年に設置されたつくば国際オフィスの活動内容についてのお話でした。
2020年のGHG(温室効果ガス)収支報告の中で、全球のCO2の収支を解説していただきましたが、排出量と吸収量の合計が必ずしも一致しているとは限らないという事がグラフを通してわかりました。
GCPではデータや資料、イベント情報などをHPで公開しています。
GCP:https://www.globalcarbonproject.org
◆「2050年カーボンニュートラルに向けた日本の気候変動対策」 和田憲法拓氏(環境省脱炭素社会以降推進室 室長補佐)
日本政府がこれまで掲げていた2030年度目標(2013年度比)が26%減から、46%減となったことから「日本が掲げる中長期目標」「検討体制」「温対計画・長期戦略の見直し」について話されました。
◆「2050年に日本で脱炭素社会を実現するために」 増井利彦(国立環境研究所 社会システム領域 脱炭素対策評価研究室長)
COVID-19で世界的に人の流れが止まり、日本もまた外出自粛期間がありました。
この影響で2019年と比べ2020年のエネルギー需要は下がりましたが、あくまで一時的なものであり持続的な方法ではないとしています。
リバウンドを抑え長期目標を実現するための課題として、
・省エネ
・脱炭素電力(再生可能エネルギー等)
・電化
・新技術
などが挙げられました。
「現状の取り組みだけでは達成は不可能」としてより強い対策が急がれます。
◆「観測とモデルで診る温室効果ガスの収支」
丹波洋介(国立環境研究所 地球システム領域 物質循環モデリング・解析研究室主任研究員)
温室効果ガスの収支は観測とモデルから診断することができ、その点では天気予報に似ているが、天気予報は次の日に正解がわかるのに対して温室効果ガスの収支診断の正解を得るには難しいとしています。
それはラジオゾンデ(気象観測器)の観測地点と比べ、CO2観測地点が圧倒的に少ないことでデータが充実していないところからも伺えます。
・化石燃料起源排出
・陸域生態系モデルによるシュミレーション
・衛星データを使った森林火災からの排出量推定
・船舶観測に基づく海洋CO2フラックスマッピング
などのボトムアップ・アプローチと大気濃度から推定するトップダウン・アプローチからCO2、CH4、N2Oの収支を解析した結果「現在は北極域でCH4放出の増加は見られない」とのことでした。
しかし、あくまで「今のところ」であり今後、海水温上昇による氷の融解が抑えられなければその限りではないとしています。
◆「気候危機は多くの危機につながっている」
渡辺知保(長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科(TMGH)教授・学長特別補佐)
「気候変動」と聞けば今まで環境問題が原因というイメージがありましたが、渡辺先生は「メンタルヘルスに著しく影響を与える」と話されました。
この分野の研究でストレス、心的外傷、うつ病及び自殺等の影響があるとわかっており「自然環境の生態系と生物多様性の保護だけでなく、都市計画政策の中で水辺と緑地を増やし、保全に力を入れれば健康も促進される」としています。
◆「コロナ禍・気候変動と新しい社会契約」 森 秀行(公益財団法人地球環境戦略研究機関 特別政策アドバイザー)
コロナ禍による影響として人的・経済的損失のほか、雇用喪失や貧困問題の悪化などの社会的問題、医療やプラスチック廃棄物などの環境問題など悪い面が目立ちました。
その反面で優れた取り組みとして、台湾とニュージーランドなどの例を挙げ、「コロナ禍のような地球規模の問題への対応はコミュニティレベルから国や国際的レベルまで協調的かつ効果的な対応が必要」としています。
それと同時に気候変動による影響は世界各地で「気候災害」として顕在化しているのでコロナ禍と同様に緊急の対応が必要とのことです。
◆パネルディスカッション
・人々の意識が大事、安いものを買ってしまうというマインドを変えるのが大切
・今は温暖化の議論が専門家レベルでとどまっている。市民のライフスタイルが影響するので国民を巻き込み大きな議論をしてほしい。一方的に市民に言うのではなく、意見交換をしながら行なうのが重要。
・正しい材料を提供して議論することが大切。
いろんな立場の方と一緒に議論するにあたり、エビデンスを出して科学に基づいての議論が大切。科学者側も考えなければならないことが多い。精神論ではない。
などの意見が出されました。
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今日のアーカイブは後日、GCPつくば国際オフィスののホームページで公開する予定だそうです。
http://www.cger.nies.go.jp/gcp/
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今回のウェビナーで1番興味を持ったのは渡辺先生の「気候変動はメンタルヘルスに影響する」でした。
鳥取に住み、自然の中に身を置く機会の多い私は先生の話を聞くまでピンと来ませんでしたが、都会で暮らす方にとっては影響も大きいかと思います。
「自然に触れていれば大丈夫」とまでは言えませんが、少なくとも木々のざわめきや森の香り、鳥のさえずりなどを聞いて気持ちが和らぐことは確かです。
そういう意味でも脱炭素化と環境保全はセットで考えるべきことだと感じました。
編集:大崎梨絵